【WORKS】陸前高田市ピーカンナッツ産業振興施設
©Kai Nakamura
用途:工場 店舗 飲食店
工事期間:2021年6月〜2022年7月(外構含む)
階数:地上1階
主体構造:鉄骨造
建築面積:1824.90㎡
延床面積:1761.55㎡
建設地:岩手県
陸前高田市は震災後、ピーカンナッツの木を植樹し、森を作り、果実を生かした6次産業化プロジェクトに取り組んでいる。「ピーカンナッツでまちおこし」は市の未来へ向けた次のステージの目標である。中心市街地嵩上げエリアの終端に位置する本施設はその拠点となり、ナッツとチョコレート菓子の加工工場、販売店舗、キッチンスタジオ、多目的スペースから構成される。再生途上の街において、歴史と伝統や地形、地域性を汲み上げ、それらと連続性をもった新たな街並みを生み出すような建物をつくることがテーマとなった。
南北に長いL型敷地において、工場は生産に必要な規模、HACCP対応を始めとする機能的な条件から平面とヴォリュームは決定され、西側に寄せて配置される。自ずとにぎわいの顔となる店舗部分は敷地南東側の配置となった。陸前高田にはもともと山から海へつながる「まちの骨格」があったが、 嵩上げ後の街のグリッドに対し、高田松原でも有名な広田湾の海岸線は南東に振れた方角にある。まちなかからピーカン畑へつながる南北軸と、博物館からのオープンスペースにつながる東西軸に、この海への軸を重ね合わせることで、店舗・多目的スペースを領域的な広がりを持つ多方向に開かれた五角形平面とした。
かつてこの地で活躍した気仙大工が得意とした扇垂木を手がかりとして、 扇形状に広がる木質の勾配天井が全体を包み込むような居場所を考えた。天井は県産材のアカマツ合板に何本もの角材を放射状に並べていくことで、繊細さと華やかさを店舗の空間に与える。天井のジオメトリがそのまま扇形の大屋根となり、五角形平面にルーズにフィットさせながら、施設全体のシンボルとなるよう、屋根は工場ヴォリュームに少しだけ重なり、寄り添うようにかけられる。周辺の山並みや嵩上げ法面の人工的な地形とも呼応し、また、岩手の伝統的な民家とも通底する、おおらかな屋根の立面が生まれた。
内部はキッチンスタジオを中心として店舗・多目的スペースがワンルームでつながっていて、軒下空間に沿いながら動線が緩やかに連続し、人々がのびのびと回遊できる空間となっている。外周部は、軒空間をぐるりとまわしながら、多方向に開く腰壁のある高さを抑えたガラス面とし、近景のピーカンナッツの森から遠くの山並みまでの風景を切り取る。大屋根と工場との隙間から差し込むやわらかな光が天井を照らし、室内の様子は時間とともに移り変わっていく。ステージは、太鼓の演奏会等のイベントが開催される等、市民のためのスペースであり、日常的には工場を窓越しに伺える見学スペースとなっている。ステージの段々状の床は外部にそのまま延びてテラスとなり、将来的には眼下に広がるピーカンナッツの森を一望できる重要な場所となる。
本年3月に市内の小学生や関係者の手によって100本ほどの苗木が植えられた。ピーカンナッツの最適品種を絞る苗木の試験植栽・育成も進められている。
扇形の屋根が、人々の賑わいと多様な活動を包み込み、陸前高田の街にとって、産業と人を育むランドマークとなることを、強く願っている。